『都市芸研』第十二輯/雑誌『曲芸』総目録解題 の変更点

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*雑誌『曲芸』総目録解題 [#nd5436da]
RIGHT:氷上 正
#CONTENTS

中国語の“曲芸”は民間の説唱芸の総称である。雑誌『曲芸』は、その名の通り中国における民間の説唱芸能に携わる芸人や作家、評論家及びその愛好家を対象とした、全国規模として出版されている唯一の専門的月刊誌である。

雑誌『曲芸』は1957年2月に創刊され、当初隔月刊であったが、1958年以降は月刊となる。ただし、1961年から再び隔月刊となる。文化大革命の時期に刊行が中断され13年間の停刊期間があるとはいえ、2014年2月現在なお刊行されており、すでに57年間の歴史をもっている。

創刊時の編集方針と意義は当時の文芸路線を反映した次のようなものであった。

>毛沢東思想を指針とし、労働者・農民・兵士のため、社会主義のために奉仕する方向性を持ち、百花斉放・百家争鳴・推陳出新の方針で、創作活動を発展させ、伝統的遺産を収集・整理し、演じ方や音曲面の改革を進め、批評面を強化し、全国各地の活動状況や経験を交流させ、曲芸を改革、発展させる((&lang(zh-cn){在中国共产党领导下,以毛泽东思想为指导,贯彻为了工农兵服务、为社会主义服务的方向和百花齐放、百家争鸣、推陈出新的方针,大力发展曲艺创作,推动曲艺遗产收集整理工作,促进曲艺表演艺术和曲艺音乐唱腔改革创新,加强曲艺评论,交流各地曲艺工作的情况和经验,以改革和发展曲艺艺术。(罗杨〈我的编辑生涯〉,《曲艺》2010年第2期,页23。)};))。

雑誌に掲載されている内容は、新作の曲芸作品や伝統的作品、また曲芸に関する評論や研究論文などである。ちなみに、創刊号の目次は以下のようになっている。

-「祝賀」老舎
-「従王小玉説到梨花大鼓(論文)」阿英
-「劉敬亭的説書芸術(論文)」陳女衡
-「富裕的査干湖(好来宝)」道爾吉 烏蘇格博彦 納賽音朝克図 作 胡爾査 訳 
-「開会謎(唱詞)」王希堅 
-「吹大気(墜子書帽)王甲徳 述 劉大海 記
-「帯翅的煤(鼓詞書帽)李成林 述
-「風雨帰舟(岔曲)」譚鳳元 述 謝舒揚 記
-「摘葡萄(清音)」胡度 記
-「蛤蟆鼓児(相声塾話)」孫玉奎 
-「玄都求雨(弾詞)」楊斌奎 述 姚蔭梅 整理
-「周倉搶娃娃(鼓詞)」李逢春 述 王允平 整理
-「孟州堂(山東快書)」高元鈞等 述 馬立元等 整理
-「三喫魚(評書)」王傑魁 述

雑誌創刊後しばらくは、新作が主となり、伝統作品や小論文が幾つか並ぶという状態が続いていた。しかし、60年代後半からは目次を見ただけでも分かるように、より一層政治的メッセージの道具と化してしまった感がある。そして、ほかの多くの文芸雑誌と同様に、文化大革命が始まる1966年第5期をもって停刊となる。

やがて1977年に文化大革命が終わり、停刊から数えて13年後の1979年1月、曲芸関係者の様々な努力により、雑誌『曲芸』は復刊を遂げた。復刊に際しての編輯方針と意義の原則は創刊時と殆ど変わらないものであったが、それに加えて次のようなものが加わった。


>一世代前のプロレタリア階級の革命家を称え、四人組を批判し、改革開放と現代化建設を表現した優秀な曲芸作品及び客観的事実に基づいた評論を大幅に掲載する。((&lang(zh-cn){以大量篇幅发表歌颂老一辈无产阶级革命家、揭批四人帮和表现我国改革开放和现代化建设的优秀曲艺作品,以及实事求是的评论文章。(罗杨〈我的编辑生涯〉,《曲艺》2010年第2期,页25。)};))


具体的にどんな内容になっているのか見るため、復刊時の雑誌目次を記すと以下のようになる。

-「為毛主席詞譜曲 賀新郎(一九二三年)」 徐麗仙 譜曲
-「陳雲同志談評弾工作」
-「黄鎮同志為『曲芸』復刊題詞」
-「光栄的使命」本刊編集部
-「撥乱反正 繁栄曲芸」陶鈍
-「発揚芸術民主」侯宝林
-「深切懐念毛主席」韓起祥
-「把心中的思念献給敬愛的周総理」馬増芬
-「珍貴的回憶」徐麗仙
-「含泪緬懐周総理 追憶諄諄教誨恩」楊乃珍
-「掛彩以後(常徳絲弦)」余致迪
-「頌歌献給華主席(好来宝)」蒙族 那木漢
-「敬愛的周総理 請您聴我唱(評弾開篇)」楊乃珍
-「天安門“四・五”快板、唱詞選」童懐周 編選
-「英雄血泪(快板書)」許多
-「如此照相(相声)」姜昆 李文華
-「春到膠林(西河大鼓)」郝赫 郝艶芳
-「老両口争灯(二人転)」徐宏魁 王肯
-「評弾工作在前進-記江蘇、上海、浙江最近召開的評弾芸術座談会」


ここから読み取れるのは、建国間もない時代への懐古と曲芸の立て直しへの決意ということになるであろう。ただ創刊当初にあった伝統的な作品や評論・研究論文などはまだ掲載されていない。

1980年代から2000年代にかけて、新作や伝統作品、評論・論文・コラムなども掲載され、内容も充実してきた反面、映画・テレビ・インターネットというメディアの変化に従って、人々の曲芸に対する意識も大きく変わり、曲芸の存在自体の危機感が誌面に現れてくるようになる。

こうした状況を受けて、やや遅きに失した感があるが2005年第7期から著名な相声芸人の姜昆が編輯主任となり、誌面は刷新される。大きな変化としては、それまで曲芸作品が主体であったのを、芸人の回顧談や評伝、曲芸の歴史や逸話などを大幅に増やしたことである。さらに、読者の声を掲載したコラムなどを設けて、現在の曲芸愛好者の要望に答えようとした。

政府公認の雑誌である『曲芸』は、ある程度政治的フィルターを掛けられながらも、大躍進から文革更に改革開放に到るまでの政治・経済状況や世相を反映した作品を掲載しつつ、また時代に取り残されようとしている曲芸の伝統的意義を再評価させるための工夫を試みている。そうした流れを意味のあるものとして、この目次リストを作成してみた。なお紙幅の都合により、ここでは創刊から文化大革命までの部分のみの掲載とする。

私自身に付いていえば、作品そのものより曲芸の逸話や曲芸芸人の談話や評伝に興味があるので、毎月この雑誌を手にとって読んでいるのだが、そういう人にもこの目録が多少の手助けとなるのではと思っている。

なお、雑誌『曲芸』は1957年の創刊号から1994年12期までを保存したマイクロフィルムがある。この雑誌を保管している大学図書館はCinii Booksで調べることができるが、創刊号から現在までのものを保管している図書館はないようである。


&size(10){*本稿は日本学術振興会科学研究費補助金「近現代中国における伝統芸能の変容と地域社会」(平成22~25年度、基盤研究(B)、課題番号:22320070、研究代表者:氷上正)による成果の一部である。};

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