台湾P/コンセプト

Top/台湾P/コンセプト

台湾P

研究目的

概要

本研究の目的は、台湾および中国本土における伝統芸能の現状と形成・変遷について、以下の点に留意しつつ解明することにある。

  1. 伝統芸能とそれを取り巻く地域社会の特質および政治・経済的背景
  2. 地域内の都市と農村、さらに地域間を結ぶ伝統芸能のネットワーク構造
  3. 台湾と中国本土における伝統芸能のあり方の比較検討
  4. 伝統芸能デジタルアーカイブ・京劇上演データベースの作成

1.研究の背景

中国の伝統芸能に関する研究は、1980 年代以降、我が国において農村祭祀芸能に対する演劇史・文化人類学的調査・研究が進展し、中国本土においても地方芸能の調査・整理が進んだことで、新たな伝統芸能像が描き出されている。一方、中国各地の伝統芸能のあり方が解明されるのに従い、それら個別の事象を相互に結びつけるネットワーク構造を、演劇学・文学史研究のみならず歴史学・宗教学などの方法・知見を総合し、分野横断的に解明する必要性が高まっている。

かかる認識に立ち、研究代表者は科研費研究「近現代華北地域における伝統芸能文化の総合的研究」(平成17~19年度、基盤研究(B)、課題番号17320059)・「近現代中国における伝統芸能の変容と地域社会」(平成22~25年度、基盤研究(B))などを通じて、北京・天津・河北・山西・陝西・遼寧・黒竜江などの北方地域、上海・江蘇・浙江・安徽などの江南地域において現地調査を行い、皮影戯・京劇・相声・宝巻などの伝統芸能を研究し、その成果を『近現代中国の芸能と社会――皮影戯・京劇・説唱』(好文出版、2013)・『中国皮影戯調査記録集――皖南・遼西篇』(好文出版、2014)などとして公刊してきた。

一方、研究の蓄積が進むにつれて、従来注力してきた同一地域内の都市・農村を結ぶ伝統芸能のネットワーク構造に留まらず、全国レベルのマクロなネットワーク構造の解明が新たな課題として浮上している。また、中国本土の事例研究からは、中華人民共和国成立後の芸能・文化政策が伝統芸能のあり方に及ぼした影響が予想以上に大きく、また近年の急激な市場経済化による社会構造の変化や無形文化遺産ブームに伴う政策的影響などにより、更なる変容を遂げつつある実態が明らかになった。

このため、かかる環境下にある中国本土の伝統芸能への理解を深めるためには、それらを対象とした研究を深化させるばかりでなく、そのあり方を相対化し客観的に論ずるための視座や具体的比較対象を設定することが、喫緊の課題となっている。

かかる問題意識から本研究では、台湾の伝統芸能を主たる研究対象として採りあげる。台湾は近現代において中国本土と異なる政治的・経済的環境下にあり、中国本土の断続的文化交流のものと、独自の発展を遂げている。一方、社会主義革命を経ておらず、地域社会に根ざして生きている伝統芸能が多い。そうした台湾独自の要素を考慮した上で中国本土と比較することで、中国における伝統芸能の本質に迫ることが可能となると考える。

2. 研究の目的

概要にも記したとおり、本研究では皮影戯・京劇・相声などの伝統芸能を取り上げ、その現状と、清代後期から現在に至るその形成・変遷の過程を解明する。主たる研究対象は台湾の伝統芸能であるが、比較・検討のため中国本土の伝統芸能についても必要に応じて対象に加える。

台湾の伝統芸能はいずれも中国本土から伝播したものであるが、現代においては日本・欧米との交流・情報伝達の窓口になるなど、広く中華圏内外を結ぶマクロな伝統芸能のネットワーク構造の中で独自の機能を果たしてきたと思われる。現地調査および文献調査を通じて、その実態の解明を目指す。

また、地域に根ざした伝統芸能は、移民などを通じた人口移動などに伴う地域社会の再編過程、および近現代の文化政策などの政治的要因によって規定される側面を持つ。このため、近現代における伝統芸能とそれを取り巻く社会背景について、西洋近代の流入とその影響や日本による植民地支配の影響に留意しつつ調査・考究する。

さらに、中国本土では経済発展や無形文化遺産制度に伴って伝統芸能の観光産業化が急速に進展しているが、先行して経済発展を遂げた台湾における状況や政策の影響を調査して中国本土と比較することで、その相違点や相互の影響関係を解明する。

最終的には、文学・演劇学・歴史学・宗教学など様々な学術領域の知見を総合し、新たな中国伝統芸能像の立体的な描出を目指す。

3. 本研究の特色と意義

本研究の顕著な特色・意義としては、以下の点が挙げられる。

①分野横断的研究

従来の中国伝統芸能研究では文学や演劇学の立場からの美学的研究が一般的であるのに対して、本研究では宗教学・歴史学など分野横断的な研究チームを組み、それぞれの研究分野の視点・方法を総合することで、地域社会に根ざした伝統芸能の実像の立体的把握を目指す点に特色がある。

②現地調査・文献調査を融合した研究手法

従来の伝統芸能研究は、ともすると現地調査・文献資料調査のどちらか一方に偏重する傾向があったが、本研究では両者をバランス良く有機的に結びつけた研究手法をとる。また、檔案など従来の伝統芸能研究では使われることの少なかった資料を積極的に活用することで、研究の新局面を拓くことを目指す。

③研究のデジタル化

本研究では、これまでの研究を通じて既にある程度構築が進んでいる伝統芸能アーカイブ・民国時期の京劇上演データベースの更なる拡充を行う。本研究のメンバーは人文情報学に関する業績のある者が多く含まれるなどいずれも情報処理に熟達しており、研究のさまざまな局面でクラウドコンピューティングなどのデジタル的手法を活用しているので、研究目的に掲げたデジタルアーカイブは、研究過程で整理・共有化されたリソースを対外公開することで無理なく構築できる。ネットを通じた研究情報発信の実現可能性の高さも、本研究の特色の1 つであると考える。