『都市芸研』第六輯/2007年夏期陝西現地調査の日程と概要

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2007年夏期陝西省現地調査の概要

氷上 正

はじめに

2007年度夏期も昨年までに引き続き華北地域の伝統芸能に関する現地調査を実施した。今回は陝西省南部に調査の重点を置き、西安を拠点に陝西省の千陽(汧陽)県・商洛市・周至(盩厔)県の皮影戯に対する調査を行った。また今回の調査で、ほぼ陝西省の主要な皮影戯分布地は網羅することとなった。

昨年と同様に西安から車をチャーターして調査地に移動、調査を終えてその日のうちに西安に帰る、というペースで日程を進めた。今年度は比較的天候に恵まれ、酷暑や大雨に見舞われることもなく順調に調査を行えた。

しかし商洛市における調査では白家山村まで行くさい、市中心部から車で一時間ほど移動したところで、脇道の入り口中心に置かれた、一メートルほどの立方体形のコンクリート塊に行く手をはばまれた。大型車、とくにトラックが入り込んで農作物や森林資源を窃盗するのを防ぐため、障害物として作られたものであるらしい。我々がチャーターしたバンはそこを抜けられず、けっきょく小型車とオートバイによるピストン輸送で目的地と往復したが、砂利だらけの山道をヘルメット無しで乗るオートバイ後部座席はなかなかのスリルであった。

商洛市白家山村への道

今年度の調査における大きな変化は、2006年5月に中国国務院が発表した「第一次国家級非物質文化名録」に各地の皮影戯も指定され、陝西省では渭南市・華陰市・富平県・乾県がリストに上がっていたことにともなうものであった。昨年までは比較的自由に各地の劇団や芸人と連絡を取り、公演も含めた取材を行うことができたが、今期からは県や市の文化局への事前連絡が求められることが多くなり、やや手続きが煩瑣になってきた。むろん、各地の演劇・芸能とその劇団に関しては文化局が詳細な情報を把握し資料を整理していることも多く、協力関係を築くことはむしろ不可欠といえる。しかしもし文化局担当者の取材への同行が義務化されるようなことがあれば、おのずと話が違ってこよう。当地への皮影戯の流伝、上演文脈や演目など、調査の項目によっては事前に指導が入りバイアスがかかるおそれもある。とくに各地で復活しつつある宗教儀礼における上演に対しては圧力がかけられる懸念が大きい。慎重に趨勢を見守りたい。

今回の調査メンバーは氷上・千田・山下・川・戸部の五名である。現地調査に当たっては、昨年までに引き続き陝西省民間芸術劇院の楊飛・李淑文夫妻に各地の関係機関・劇団・芸人との連絡手配をお願いした。さらに今年度は一部調査にご子息である楊青氏にもご同行いただいた。多忙の中、協力いただいたことに特に感謝したい。

日程

8/21氷上・千田・山下・川成田空港より上海に移動。上海泊。
8/22午前:木偶戯・皮影戯研究家である丁言昭氏を訪問、インタビュー。
午後:上海市内にて資料収集。
8/23氷上・千田・山下・川上海浦東空港より西安に移動。
戸部成田空港より上海経由で西安に移動。
8/24午前:鐘楼・鼓楼にて楊飛氏所蔵影人の展示を見学。
午後:宿泊ホテル内で、かつて西安徳慶皮影社で活躍した老芸人にインタビュー。碗碗腔皮影戯音楽演奏を記録。
8/25午前:車にて千陽県に移動。
午後:千陽市街にて民間工芸の制作および展示を見学。南寨村に移動して布芸を見学、灯盞頭碗碗腔皮影戯の上演を見学・撮影、老芸人へのインタビュー。
8/26午前:車にて商洛市に移動。陝西省商州地区文化館を訪問した後、同市白家山村に移動、昼食。
午後:白家山村皮影楽隊の上演見学・撮影、老芸人へのインタビュー。同市磨溝村に移動。磨溝村皮影戯隊の上演を見学・撮影、老芸人へのインタビュー。
8/27戸部帰国。
氷上終日:西安市内にて休養。
千田・山下・川午前:車にて周至県に移動。周至県収蔵家協会を見学。同県王家河村に移動。周至県西秦木偶皮影芸術団による弦板腔皮影戯の上演を見学・撮影、老芸人へのインタビュー。
午後:西安に帰着。
8/28北京に移動。
8/29~9/4北京にて各自文献資料調査後、順次帰国。
丁景唐氏・丁言昭氏と
鼓楼の皮影影人展示
鼓楼の皮影影人展示
千陽李愛姐の繍花展示室
商州地区文化館にて
白家山村皮影楽隊と
磨溝村皮影戯隊戯箱
周至県収蔵家協会にて
王家河村関帝廟の廟会
  • 本稿は、日本学術振興会科学研究費・基盤研究B「近現代華北地域における伝統芸能文化の総合的研究」(2005~2007年度、課題番号:17320059、研究代表者:氷上正)による成果の一部である。